「熱目魚ってどんな魚でしょう?」
事の始まりはこんな質問からだった。
このところ毎年恒例となった僕達の韓国旅行をサポートしてくれるS.F君は、行動力旺盛なフライフィッシャーだ。
彼が仕事で名古屋〜ソウル間を毎月行き来している事は以前から知っていたが、出張の合間にフライフィッシングを企てていたことは思いもよらなかった。
フライフィッシングのフィールドとして、韓国にはあまり魅力を感じていなかったからだ。
・・・ 韓国と言えばなによりプルコギ、ケジャン、カンジャタン!
韓国でフライフィッシングがしたいと言う彼の相談を適当に聞き流していると、アクティブな彼は、「とりあえず見てきます。」とそそくさと旅立って行った。
数日後帰国した彼の話に少し驚いた。
ソウルには、日本のフライショップにも劣らない品揃えのFF専門店があり、郊外にはFFエリア(管理釣り場)まで存在すると言う。
まだまだ発展途上のようだが、FFに対して熱い思いのフライフィッシャーが年々増えつづけていて、そのコリアンフライフィッシャー達を夢中にさせている対象魚が《熱目魚》なんだそうだ。
「それってナイルパーチじゃない!?」熱目魚と聞かれて僕の希薄なボキャブラリーと単純な思考回路は、熱目=赤目=アカメ=ナイルパーチと判断を下したのだ。
「でも渓流魚なんですよ・・・・」彼は僕の回答のいいかげんさを察したのか、「来週釣りに行く手はずを取ってきました。」と今度はマルチピースを仕事用のバックに忍ばせて、またしても旅立った。
しばらくして「イヤー楽しかったデス!!」と彼が見せてくれた写真で初めて判った。
熱目魚(ヨル・モッ・ウォ)は、朝鮮半島に住むネイティブトラウト《レノック》だった。
レノックは、サケ科ブラキミスタックス属のれっきとしたサルモニダエで、和名はコクチマスと言う。
ユーラシア大陸の北部、極東のアムール川あたりに多く生息し、タイメン釣りの《外道》として有名(?)だ。日本には生息していない種族で、見ようによってはブラウントラウト、イワナ、そしてウグイにも見える。
写真には日本のどこかにあるような美しい渓流と紅葉に輝く山々が写っていて、しかもライズを狙ったマッチザハッチのFFが出来るというのを聞き、急に興味がわいてきた。
日本の鱒達にとって秋は繁殖のシーズンで、残念ながら紅葉の中での渓流釣りはできないが、レノックのスポーニングは春だという。日本の渓流がオフを迎えてからでも充分に、いや、そのシーズンがベストとあってはこれは行くしかない。彼の誘いに2つ返事で乗った。
名古屋からソウルへは約1時間半のフライトで着く。
ソウル市内でFFショップ「RAINBOW」を経営しているヤン(Yang-Shi-Woog)さんが彼の車でガイドしてくれる手筈だ。
ソウル市内から街の中央を流れる大河川ハン-ガン(Han-Gang)沿いに車を走らせる。峠をいくつか越えた3時間ほどのドライブで、日本では懐かしい、人々の暮らしと自然とがうまく調和した山里の風景が広がり、そこにレノックの住む渓流、ネイ-リン-チャン(Nae
Rin Cheon)は流れる。※ 韓国では河をガン(Gang)といい川をチャ(ョ)ン(Cheon)と言う。
ネイ-リン川の上流域一帯はナショナルパークとなっていて、公園内のレノックは国で保護されている。だから僕達がレノック釣りを許されるのはこの川の中流域になるのだ。
また、ネイ-リン川にはレノック以外にもともとヤマメも生息している。ヤンさん達グループが定期的に放流活動を続けているから、サイズの良いヤマメがドライフライで狙えるが、やはり日本では味わえないレノック釣りのほうに僕は惹かれる。レノックのシーズンとしては、4月から5月と、この紅葉のシーズン10〜11月がベストだ。もっとも、年間通して実績はあるようだが、さすがに真夏は川遊びやキャンパー達が川辺に多く、釣りにならないそうだ。
このあたりの流れは渓流と言っても結構な規模で、いつも僕は8'2"#2のロッドにロングレンジもアプローチできる様、3番のWFラインを乗せたものを用意している。
レノックが好む流れは、ヤマメのポジションでもなくイワナのそれでもない。
ヤマメやイワナは底石などの障害物を中心に、オブザヴェーションのポジションを取る。そのため底石はポイントを決める重要なファクターとなるが、レノックは底石を意識するよりも流れそのものでポイントを絞った方が良い。また、流れのヨレや巻きでフライに出るケースも少なく、ある程度水深があって比較的ゆったりとした流れでフライをくわえることが多い。ヤマメがイブニングライズで出る流れ、と言えばわかりやすいだろうか。
そして完璧なナチュラルドリフトが必要不可欠となる。
小さなドラグもヤマメよりも敏感に察知し、フライに反応を見せなくなる。このためティペットは細いものの方が断然有利だ。レノックはヤマメのローリングとイワナの粘り強さを合わせた様な独特なファイトを見せる。30センチを超えるものになるとかなりの強さになるから、僕は6Xを標準として使っている。
フライも含め、基本的には日本の渓流でヤマメやイワナを狙うのに使うシステムそのままで良いが、厄介なのはあの口の形状だ。レノックは活性の低い時、水面のフライを吸い込む様にくわえる。
エルクヘアーやカーフテールなど、固めのマテリアルを使ったフライではフッキングの確率が極端に悪くなってしまうのだ。
CDC系のフライなら問題ないが、今回僕が使用したパターンは、クラシカルなソフトハックルフライにドライフライフロータントを施し"柔らかなドライフライ"に仕上げたもの。先週の雨による水温低下で活性のさがった条件下、これが功を奏したのだ。
今回の最大サイズは40センチ弱だったが、まだ見ぬ50センチオーバー(実際に毎シーズン何本かドライフライで釣られている。)を求めて、当分ネイ-リン-チャン通いが続きそうだ。
最後に、ネイ-リン川沿いにある民宿《キムさんの宿》の豆腐料理はソウルから沢山の人が訪れるほど有名。なかでも自家製豆腐を豆乳で煮込んだ鍋は絶品だ。
行かれた方は是非これを味わってほしい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〜2001年“FLY
FISHER”誌に掲載〜

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