八重山の11月。
深夜に襲来した低気圧に飲み込まれて、亜熱帯の森はいっそう暗い。
そんな中、マングローブに縁取られた広大な河口から、カヌーで源流を目指す。

しかし、気まぐれなスコールに叩かれながらやっと辿り着いたのは、予想外の小渓。
こんな流れに目指す魚がいるのか不安ではあったが、カヌーを係留して釣り始めた。

シダの生い茂る見慣れない渓相の中、ドライフライを流れにのせた。
浅い瀬の開きで小魚が群がってきたが、#10フックはかすりもしない。
しかし、深場に顔を出した大岩の脇でフラッタリングさせてみると、
大きな波紋を残してフライが消えた。
イワナそっくりのライズだ。
半信半疑でロッドを立てると、力強い魚信と共に魚影が走る。
太いティペットにモノを言わせ強引に寄せてくると、
25センチほどの見慣れない魚が、流れを割って足下で跳ね回った。
ブラックバスにも似た体高のある精悍な魚体。

「オオグチユゴイ」だ。

南国の渓流に住む魚だとは知っていたが、フライで釣れるという確信は無かった。
それだけに、目の前にいる魚に感動した。
苦労してここまで来た自分に応えてくれたようで、無性に嬉しかった。
その後すぐに2匹目がヒット。
今度は30センチを超えるサイズで、なかなかのファイター。
ハンドランディングすると、鋭い背鰭が手のひらを引き裂いた...。

もう少し釣りをしていたかったが、雨は強くなるばかり。
そしてヤマビルの襲撃!
気が付くと足下から這い上がってきて、太股に吸い付いている。
軟体動物が苦手な僕には、耐えられない恐怖だ。
森もいよいよ深くなり、人の立ち入ることを拒むように、
見知らぬ植物たちが行く手を阻む。
なかば当てずっぽうで此処まで来て目的の魚が2匹釣れたのだから、
このあたりが引き際なのかも知れない。
そう思い直し、すこし後ろ髪をひかれながら、再来を誓って渓を後にした。


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